【社保がきつい】美容室オーナーが知っておくべき社会保険料の対策と考え方

「社会保険、毎月こんなにかかるの……?」

法人化した途端、あるいはスタッフが増えたタイミングで、社会保険料の重さに驚く美容室オーナーは少なくありません。

給与の約15%を事業主が負担する。スタッフ3人いれば月13万円以上。

年間にすれば150万円を超える——この数字を見て、「きつい」と感じるのは当然のことです。

ただ、「きつい」で止まってしまうのはもったいない。

社会保険の負担を軽くする手立ては、実はいくつもあります。

給料の決め方ひとつで年間数万円の差が出ることもあれば、助成金で負担の一部を回収できることもある。

社保を「払って終わり」にするか、「経営全体の中で設計する」かで、結果は大きく変わります。

この記事では、美容室の社会保険の基本から、負担が重くなる構造的な理由、そして対策の選択肢までを整理します。

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監修者

社会保険労務士
野田 大吾郎

美容室経営に詳しい社会保険労務士。
人材定着、評価制度、労働条件の設計など、人に関わる経営課題を中心に、美容室の労務体制づくりを支援している。正解を押し付ける制度設計ではなく、サロンごとの働き方や現場の実情に合わせ、実際に運用できる仕組みを整えることを重視。スタッフとオーナー双方が無理なく働ける環境づくりを得意とする。
また、「美容サロンが申請すべき3つの助成金」を提唱し、助成金の活用支援においても豊富な実績を持つ。

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目次

そもそも美容室の社会保険とは?——制度の基本をシンプルに整理

社会保険は5つの公的保険の総称

社会保険と一口に言っても、実は5つの制度の総称です。それぞれ目的と負担の仕組みが異なります。

保険の種類目的事業主負担
健康保険病気やケガの医療費負担を軽減労使折半(約5%)
厚生年金保険老後の年金を上乗せ労使折半(約9.15%)
介護保険介護が必要な場合の支援(40歳以上)労使折半(約0.8%)
雇用保険失業時の給付、育児休業給付など事業主0.95%/従業員0.6%
労災保険業務中・通勤中のケガや病気全額事業主負担

※料率は目安。年度や都道府県によって変動します。

このうち、経営への影響が大きいのは健康保険と厚生年金です。

この2つだけで、スタッフの給与の約15%を事業主が負担することになります。

「労使折半」とは、保険料を事業主(会社側)と従業員で半分ずつ負担する仕組みのことです。
たとえば健康保険料率が約10%の場合、事業主が約5%、従業員が約5%をそれぞれ負担します。

加入義務の条件——法人と個人事業主で大きく異なる

社会保険の加入義務は、事業の形態によって異なります。

事業形態健康保険・厚生年金の加入義務
法人(株式会社・合同会社など)スタッフ1人でも強制加入
個人事業主(5人以上)原則加入義務あり(ただし美容業は「非適用業種」のため現時点では任意)
個人事業主(5人未満)任意加入

法人化すると自動的に社会保険の強制適用事業所になるため、「法人にしたら社保の負担が一気に増えた」というケースが多いのです。

※雇用保険と労災保険は、法人・個人を問わず、スタッフを1人でも雇った時点で加入義務があります。

社会保険の適用拡大——今後さらに対象が広がる

社会保険の適用範囲は年々広がっています。

パートやアルバイトであっても、週の所定労働時間や月額賃金が一定の基準を満たせば加入対象になります。

今後も段階的に適用が拡大される見通しで、2032年には従業員11人以上の事業所まで対象が広がる案が進んでいます。

「うちは小規模だから関係ない」とは言えなくなる時代が、すぐそこまで来ています。

なぜ美容室は社会保険の負担が「きつい」のか

人件費率が高い業種だから、社保の重みが他業種より大きい

社会保険料は給与に比例して増えます。

そして美容室は、経費に占める人件費の比率がもっとも高い業種のひとつです。

売上の40〜52%が人件費に充てられるサロンは珍しくありません。

その人件費に対してさらに約15%の社会保険料が上乗せされる。つまり、美容室は構造的に社保の負担が重くなりやすい業種なのです。

たとえば月給25万円のスタッフが3人いる場合、事業主の社保負担はおおよそ月11〜12万円。

年間で約135〜140万円。この金額は、小規模サロンにとっては利益のかなりの部分を占めます。

法人化した途端に「想定外の負担」が発生する

個人事業主の間は社保の加入義務がなかったサロンが、法人化した途端に強制加入になる。

これは構造上避けられないことですが、「法人にしたほうが節税できる」という情報だけで法人化し、社保のコストを事前にシミュレーションしていなかったオーナーは多いです。

法人化のメリット(税率の一定化、節税の幅の拡大、信用力の向上)は確かに大きい。

しかし、社保負担という「見えなかったコスト」を加味してトータルで判断しないと、「法人にしたのに手元のお金が減った」ということが起こります。

最低賃金の上昇とのダブルパンチ

政府が掲げる2030年の最低賃金目標は1,500円。

これが実現すれば、美容室の初任給は最低でも26万円〜、求人の募集要項は30万円が当たり前になる可能性が高いとされています。

給与が上がれば、それに比例して社会保険料も上がる。

最低賃金の上昇と社保負担の増加は連動しているのです。「今でもきつい」が、何もしなければさらにきつくなる——この構造を理解しておく必要があります。

未加入のまま放置すると最大2年分の遡及請求リスク

「社保には入りたくない」という気持ちは理解できますが、加入義務があるのに未加入のまま放置すると、日本年金機構の調査が入り、過去2年分に遡って社会保険料を請求される可能性があります。

月給30万円のスタッフが3人いるサロンなら、遡及請求額は300万円を超えることもある。

この金額をいきなり請求されて対応できるサロンは多くないでしょう。未加入のリスクは、対策を先延ばしにすればするほど大きくなります。

一般的な社会保険の対策とその限界

美容国保の活用

個人事業主の美容室で使える選択肢のひとつが、東京美容国民健康保険組合(通称:美容国保)などの業種別国保です。

メリットは、保険料が給与に関係なく定額であること。

給与水準が高いスタッフほど、協会けんぽより保険料が安くなることがあります。

一方デメリットとして、出産手当金が協会けんぽに比べて大幅に少なく、傷病手当金も入院時以外は支給されないなど、給付内容が薄い点があります。法人化すると原則使えなくなるケースもあります。

役員報酬の調整

法人のオーナーは、役員報酬の金額を調整することで自身の社保負担をコントロールできます。

ただし、役員報酬は年度の途中で原則変更できず、低く設定しすぎると将来の年金額に影響します。

パート・アルバイト比率の最適化

社保の加入対象にならない範囲でパート・アルバイトを活用することで、事業主の社保負担を抑えることは可能です。

ただし、適用拡大の流れの中で「加入対象外」の範囲は年々狭まっています。

これらの対策はいずれも「間違い」ではありません。

しかし、社保負担を「軽くする」ことはできても、「本質的に楽にする」ものではないのが正直なところです。

働き方の見直しで社会保険を見直す

雇用の多様性が年々高まる中、サロンによってはうまく向き合いながら対応されているのも事実です。

サロンの状況に合わせて、ご提案できることもありますのでご興味がある方はLINEに登録いただいた後に、「社保の見直し」とメッセージをください。

他社事例も含めて話せることがありますので、お気軽にご相談ください!

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社会保険を「コスト」ではなく「投資」と捉え直す

社保完備の求人は応募率が高い

美容業界の求人で「社会保険完備」を掲げているサロンは、実はまだ多数派ではありません。ある調査では、求人掲載サロンのうち社保完備は約36%。にもかかわらず、応募の約44%が社保完備のサロンに集中していたというデータがあります。

つまり、社保を完備しているだけで、採用市場において明確な優位性が生まれる。人材不足が深刻化する美容業界で、これは無視できないアドバンテージです。

幹部が辞める理由の58%は「お金の問題・将来の不安」

国内外500以上のサロン経営に携わってきた中で見えてくるのは、スタッフの離職理由は「お金」に集中しているという事実です。

幹部クラス(月100万円以上売り上げるトップスタイリストや店長)が辞める理由の58%は「お金の問題・将来の不安」。

社会保険の未加入は、まさにこの「将来の不安」を直接的に助長する要因です。

安定志向のスタッフが重視するのは「社保」「退職金」「有給」

スタッフのモチベーションの源泉は一人ひとり異なりますが、安定志向のスタッフが求めている報酬は明確です。

社会保険加入、退職金の積み立て、有給休暇、基本給の安定、ボーナス——いずれも「安心」に直結するものです。

成長志向のスタッフには「教育」や「機会」が刺さりますが、長く働いてくれる安定志向のスタッフには「安心の土台」が刺さる。社保はまさにその土台です。

離職コストと比較すれば、社保は「一番安い定着投資」かもしれない

100万円以上売り上げるスタッフがサロンに留まる平均年数は、かつて8年でしたが、今は4年にまで短縮しています。

幹部スタッフが辞めたときの損失を考えてみてください。その人の売上がゼロになるだけでなく、後任の採用コスト、育成にかかる時間、他のスタッフへの影響。

これらを合計すれば、年間の社保負担をはるかに超えることは珍しくありません。

社保は「払わなければいけないコスト」ではなく、「払うことで人が残る投資」。

社労士 野田

この視点を持てるかどうかで、社保への向き合い方は変わります。

給料の「決め方」ひとつで、社保負担は年間数万円変わる

「なんとなく」で決めた給与が、社保を重くしている

これは多くのオーナーが知らない事実ですが、社会保険料は給与額に対して連続的に増えるわけではありません。

「標準報酬月額」という等級ごとに段階的に変わる仕組みになっています。

つまり、等級の境目をまたぐかまたがないかで、保険料がガクンと変わるポイントがある。

たとえば、月給をほんのわずか数百円だけ変えるだけで、標準報酬月額の等級が1つ上がり、社会保険料の年間負担が数万円単位で増えるケースがあります。

逆に言えば、等級の境目を意識して給与を設定するだけで、同じ手取り水準を保ちながら社保負担を抑えることもできるのです。

給与を決める際は「キリのいい数字」が一番危ない

スタッフの給料を「なんとなくキリのいい数字」で決めていませんか。

25万円、30万円、35万円。こうした金額が、たまたま等級の境目をまたいでしまっているケースは実に多い。(政府の思惑通りにならないで!!)

給与設計は、手取りとのバランス、社保負担、税金への影響を総合的に考えて決めるべきものです。

知っているかどうかだけで、年間数万円〜数十万円の差が出る。これは「節約」ではなく「設計」の話です。

社労士 野田

給与の決め方は本当に大切なことなので、税理士、社労士としっかり話すことがおすすめです!

助成金・制度活用という”見えない対策”

美容室は助成金との相性が「最強レベルに良い」業種

社保の負担を「払うだけ」で終わらせず、別の形で回収する方法があります。それが助成金です。

美容室の日常には、助成金の受給要件を自然に満たす要素がたくさんあります。

助成金の種類対象となる取り組み受給額の目安
キャリアアップ助成金契約社員・パート→正社員への転換1人あたり数十万円
両立支援等助成金産休・育休の取得支援、職場復帰支援数十万円〜百万円規模
人材開発支援助成金技術講習、経営セミナー、外部研修の実施研修費の一部〜大部分

アシスタントからスタイリストへ、契約社員から正社員へ——美容室の日常にある「当たり前の成長」を制度として整えるだけで、国がその取り組みを後押ししてくれる。

年間で合計100万円以上の受給になることも珍しくありません。

「うちは小規模だから関係ない」は逆

助成金は大規模サロンのものではありません。

むしろ小規模サロンこそ使わないと損です。売上が少ないからこそ、国からの支援が利益に直結するインパクトを持つのです。

「面倒だからやらない」で避けるものではなく、「もらわないことがリスク」になる時代に入っています。

社保を払いながら、助成金で回収する。この設計ができているかどうかで、社保への心理的な負担感はまったく違ってきます。

社保対策は「単体」ではなく「経営全体の設計」の中にある

人件費は「社保込み」で管理する

社会保険料を「予想外の追加コスト」と感じてしまうのは、人件費を給与の額面だけで管理しているからです。

美容室の経費は大きく4つのカテゴリに集約されます。人件費、材料費、家賃光熱費、広告費。この「4大コスト」の合計が売上の80%以内に収まっているかどうかが、利益を残すための基本ラインです。

そしてこの「人件費」には、給与だけでなく社会保険の会社負担分も含めて計算すべきです。社保を含めた人件費で管理すれば、「社保がきつい」ではなく「人件費全体をどう設計するか」という、より本質的な問いに変わります。

法人化で使える制度との組み合わせ

法人化すると社保負担が増えるのは事実です。しかし同時に、法人だからこそ使える制度も増えます。

制度内容効果
社宅制度自宅を法人名義で借り上げ、社宅扱いにする家賃の5割〜最大9割を法人の経費に
出張旅費規程出張時に日当を支給(法人経費かつ受取側は非課税)年間数十万円の非課税収入を生み出せる
小規模企業共済経営者のための退職金積み立て制度掛金全額が所得控除、低金利で貸付も可能
法人保険の活用個人契約の保険を法人契約に切り替え保険料を法人の経費にできる

社保だけを見れば「負担増」。でも法人化に伴う制度を組み合わせれば、社保のコスト増をトータルで相殺する設計ができる。社保だけを切り取って「きつい」と判断するのは、経営の一部しか見ていないということです。

見るべき数字は「成績」

社保の対策は、突き詰めると「経営全体でお金が残る構造になっているか」という問いに帰結します。

月の売上からコスト合計(社保込みの人件費+材料費+家賃光熱費+広告費+その他)と借入返済を引いた金額。これがサロンの「成績」です。この成績がプラスであれば、社保を含めてもキャッシュは回っている。マイナスであれば、社保に限らずコスト全体の見直しが必要になる。

毎月この数字を出すだけで、社保の負担が「全体の中でどのくらいの重さなのか」が見えるようになります。

まとめ

美容室にとって社会保険の負担が重いのは事実です。人件費率が高い業種構造、法人化に伴う強制加入、最低賃金の上昇——どれもオーナーの努力だけでは変えられない外部要因です。

しかし、その負担に対してできることは、実はいくつもあります。

給料の設定ひとつで年間数万円の差が出ること。助成金を活用すれば負担の一部を回収できること。

法人の制度を組み合わせればトータルで相殺できること。社保を「人が残る投資」として捉え直せば、離職による損失を防ぐ武器にもなること。

選択肢はある。

問題は、それを自分のサロンの状況に合わせて整理し、「あなたのサロンならこうすべき」と提案してくれる場がほとんどないことです。

税理士に聞いても「社保の話は社労士に」と言われ、社労士に聞いても「経営全体の設計は税理士に」と返される。

社保、助成金、給与設計、法人の制度——これらを横断して、美容室の現場感覚に合った提案をしてくれる存在は、実はかなり少ないのが現状です。

もし、社保の負担を含めた経営全体の数字を、一度誰かと一緒に整理してみたいと思ったらぜひお気軽にご相談ください!

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よくある質問

Q. 個人事業主でもスタッフの社会保険に任意加入できる?

はい、個人事業主であっても「任意適用申請」を行うことで健康保険・厚生年金に加入できます。採用力の向上やスタッフの定着を重視する場合は、義務がなくても加入を検討する価値があります。日本年金機構への申請が必要です。

Q. 社保に入ると手取りが減ってスタッフに嫌がられない?

確かに天引き額は増えますが、その分だけ将来の年金額が増え、病気やケガの際の傷病手当金、出産手当金など手厚い保障がつきます。「手取りが減る」ではなく「将来の保障が増える」と伝えることが大切です。スタッフへのお金の教育も、オーナーの重要な役割のひとつです。

Q. 社会保険料は経費として計上できる?

法人の場合、会社負担分の社会保険料は「法定福利費」として経費に計上できます。個人事業主の場合も、従業員分の社保負担は経費になります。ただし、オーナー自身の国民健康保険料や国民年金は経費ではなく、確定申告時の「社会保険料控除」として所得控除の対象になります。

Q. 美容国保と協会けんぽ、どちらが得?

一概には言えません。美容国保は保険料が定額で、給与が高いスタッフほど割安になりますが、出産手当金や傷病手当金の給付が薄い。協会けんぽは保険料が給与に連動して上がりますが、給付内容が手厚い。サロンの規模、スタッフの構成、今後の法人化の予定などを含めて判断する必要があります。

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