- うちのサロンにはどんな雇用形態が合うんだろう?
- 業務委託と正社員、どっちがいいの?
- 法律的に問題ないか心配…
美容室経営において、雇用形態の選択はサロンの未来を左右する重要な決断です。
適切な選択ができれば経営の安定につながりますが、間違った選択をすれば思わぬトラブルを招くことも…。
この記事では、美容室で採用できる様々な雇用形態のメリット・デメリットを現場目線で解説し、あなたのサロンに最適な選択をするためのポイントをご紹介します。
監修者

西脇 敬久
あひる社会保険労務士法人 代表社会保険労務士。
美容業界の労務にめっぽう強く、全国に多数の顧問先を抱えている。「美容サロンが申請するべき3つの助成金」を提唱。助成金申請代行においてもトップクラスの実績を誇る。
当社は美容業界に特化した会計労務サービスを提供。数字を活用し、人材流出を防ぎながら、18%の利益率を目指す経営支援を行います。会計業務にとどまらず、経営改善やスタッフ定着率向上のアドバイスを通じて、美容室経営の安定と成長をトータルサポートいたします。
美容室に合った雇用形態を選ぶ、その前に知っておきたいこと
雇用形態を選ぶ前に、まず考えたいのは「どんなサロンを作りたいか」というビジョンです。
高級感のあるブランディングを重視するサロンなのか、それとも個性的なスタイリストが集まるサロンを目指すのか。
教育に力を入れたいのか、それともスタイリストの自由度を重視したいのか。
これらのビジョンによって、最適な雇用形態は変わってきます。また、サロンの資金状況や規模、成長段階によっても選ぶべき雇用形態は異なります。
では、美容室でよく見られる4つの雇用形態について、それぞれの特徴をチェックしていきましょう!
正社員雇用 — メリットたっぷりだけど気をつけたいポイントも
正社員雇用は、もっともオーソドックスな雇用形態です。美容師と雇用契約を結び、月給制やそれに歩合を組み合わせた形で給与を支払います。
メリット
- 長期的な人材育成がしっかりできる
- サロンの世界観やカラーが浸透しやすい
- スタッフの「うちのサロン」という帰属意識が高まる
- お客様との長期的な関係づくりがスムーズ
- 技術やサービスの均一化が図りやすい
デメリット
- 固定給の負担が大きく、資金繰りが厳しくなることも
- 社会保険や福利厚生などのコストがかさむ
- 売上に関わらず人件費が固定費として発生する
- スタッフが辞めると大きな痛手に
- シフト管理や労務管理の手間がかかる
正社員雇用は安定感があり、スタッフ教育に力を入れたいサロンに最適です。
スタッフも安心して働ける環境が整いますが、オーナー側の金銭的・時間的コストは他の雇用形態と比べて高くなります。
新規オープンや小規模サロンでは、資金計画をしっかり立ててから導入を検討しましょう。
実例:正社員雇用の成功パターン
東京の人気サロンでは、スタッフ教育を重視した正社員採用を実施した結果、開業から3年間は資金面で苦労したものの、5年目には技術の均一化とサロンカラーの浸透により客単価が20%アップし、安定した経営基盤を構築することに成功しています。このサロンでは「技術レベル別給与体系」を導入し、スタッフのモチベーション向上と定着率アップを実現しました。
パート・アルバイト — 柔軟な働き方で美容室を支える力
シャンプーやアシスタント業務、受付など、特定の業務や時間帯に限定して雇用する形態です。
メリット
- 人件費を売上に合わせて調整しやすい
- 忙しい時間帯だけ人員を増やせる柔軟性がある
- 条件によっては社会保険の負担が軽減できる
- スタッフの都合に合わせた柔軟なシフト組みが可能
- スタイリスト以外の業務を効率よく分担できる
デメリット
- サロンカラーや技術の浸透に時間がかかる
- キャリアアップを目指すスタッフには物足りない場合も
- シフト調整が複雑になりがち
- 安定した人材確保が難しいことがある
- 責任感や帰属意識が育ちにくい場合もある
パート・アルバイトは人件費の調整がしやすく、特に開業したての小規模サロンにとって心強い選択肢です。長期的な人材育成や技術の安定性を求める場合は、正社員雇用との併用も検討するとよいでしょう。
実例:パート・アルバイト活用の成功例
埼玉県のあるサロンでは、主婦層の美容師を積極的に採用し、平日10時〜15時の時短パート勤務を導入しています。シャンプーとカラーリングを専門的に担当してもらうことで、技術の専門性を高めつつ、子育て中のスタッフも働きやすい環境を実現。結果的に離職率を大幅に低減させることに成功しています。将来有望なパートスタッフには段階的に勤務時間を増やしていき、準社員から正社員へとステップアップできるキャリアパスを用意することで、優秀な人材の確保につながるでしょう。
業務委託 — 「偽装請負」にならないための超重要ポイント
業務委託は、美容師が独立した事業主として、サロンオーナーと業務委託契約を結ぶ形態です。施術売上の一定割合(歩合)をスタイリストに支払い、残りがサロン側の収入となります。
メリット
- 固定給の負担がなく、資金繰りが楽になる
- 社会保険や労働保険の負担が減る
- 売上に応じた人件費調整ができるので経営が安定しやすい
- スタイリストの集客意欲が自然と高まる
- 経営リスクをスタイリストと分散できる
デメリット
- 実態によっては「偽装請負」とみなされるリスクがある
- スタイリストごとに技術やサービスにばらつきが出やすい
- サロン全体としての一体感を作りにくい
- 教育や指導に一定の制限がある
- 腕に自信がついたスタイリストは独立していきやすい
業務委託はオーナーの固定費負担を軽減できる一方で、法的なリスクや人材の流動性の高さに注意が必要です。契約内容と就業実態が「雇用」と判断されないよう、専門家のアドバイスも取り入れながら慎重に進めましょう。
実例:業務委託の適切な運用例と注意点
大阪のあるサロンでは、労働基準監督署の調査で業務委託スタイリストへの勤務時間指定や細かい業務指示が問題となり、未払い社会保険料の追徴課税を受けてしまいました。
一方、名古屋のサロンでは、業務委託スタイリストに対して「予約可能時間の申告制」を導入し、スタイリスト自身が働ける時間帯を申告して予約を受け付ける仕組みを構築。マニュアルによる指示ではなく「サロン推奨スタイル」として提案するにとどめ、最終判断はスタイリストに委ねる運用を徹底することで、偽装請負リスクを低減しています。
面貸し(フリーランス) — お互いがWin-Winになる関係づくり
面貸しは、サロン内のスペース(席)を美容師に貸し出し、家賃収入を得る形態です。美容師は完全に独立した事業主として活動します。
メリット
- 毎月安定した家賃収入が得られる
- 経営管理の手間や負担が少ない
- スタイリスト教育の責任がないので気楽
- 施術内容や価格設定に口出しする必要がない
- 個性的な美容師が集まることで、サロン全体の魅力アップも
デメリット
- サロン全体のブランディングやコンセプト維持が難しい
- 品質管理やサービスの統一感が出しにくい
- 集客はスタイリスト任せになりがち
- 共用スペースの管理や調整が必要
- 美容師間でトラブルが起きた場合の対応が大変
面貸しはオーナーの負担がもっとも少ない形態ですが、サロン全体としての方向性やブランディングを重視する場合には不向きな面もあります。どんなサロンを目指すのかというビジョンと合致するかどうかを見極めましょう。
実例:面貸しサロンの成功事例
大阪の老舗サロンでは、開業10年目を機に全面的に面貸しスタイルへ移行。オーナーの経営管理業務は月20時間から5時間に削減され、安定した家賃収入を確保。「個性派スタイリストの集まるサロン」としてリブランディングを行い、新たな客層の開拓に成功しています。
京都の複合型サロンでは、面貸し契約の際に「面貸し美容師向け開業ガイドブック」を作成・配布し、税務申告や保険加入、設備使用ルールなどを詳細に解説。また四半期ごとに「サロンミーティング」を開催して情報共有や課題解決の場を設けることで、契約後のトラブルを未然に防ぐ体制を整えています。
雇用形態選びで成功しているサロンの共通点
様々なサロンの雇用形態選びを見てきましたが、成功しているサロンには共通点があります。それは「サロンのビジョンと雇用形態が一致している」ということ。
高級感と統一されたサービスを重視するサロンは正社員中心、個性的なスタイリストの魅力を活かしたいサロンは業務委託や面貸し中心、というように、目指すサロン像に合った雇用形態を選んでいるのです。
また、成功サロンのもう一つの特徴は「複数の雇用形態をうまく組み合わせている」こと。
例えば、中核となるスタイリストは正社員、新人やアシスタントはパート・アルバイト、ベテランスタイリストは業務委託や面貸しというように、スタッフのキャリアステージや希望に合わせた多様な働き方を提供しています。
名古屋の人気サロンでは、新人〜3年目までをパート・アルバイト、3〜7年目のスタイリストを正社員、7年目以降の実績あるスタイリストを業務委託、10年以上のベテランには面貸しオプションを提供する「キャリアステージ別雇用形態」を導入。
これにより人材の定着率が15%向上し、多様な世代のスタイリストが共存するサロン運営を実現しました。
あなたのサロンの成長段階に合わせた雇用形態の選び方
サロンの成長段階によっても、最適な雇用形態は変わってきます。
開業初期(1〜2年目)
開業したての時期は、固定費を抑えた運営が大切です。オーナー自身が現場に入りながら、必要に応じてパートスタッフを採用する形が理想的です。固定給の負担を抑えつつ、徐々に顧客基盤を構築していきましょう。
成長期(3〜5年目)
売上が安定してきたら、正社員雇用を増やし、教育システムの構築と人材育成に注力する時期です。将来のサロンを支える中核スタッフの育成を始めると同時に、業務委託スタイリストの採用も視野に入れ、多様な働き方を提供できる体制を整えていきます。
安定期(5年以上)
経営が安定してきたら、複数の雇用形態を組み合わせた柔軟な運営が可能になります。正社員、パート、業務委託、面貸しをバランスよく組み合わせ、スタッフそれぞれのライフスタイルや志向に合わせた働き方を提供できる体制を目指しましょう。
もしもトラブルになったら?よくある失敗例と対処法
雇用形態に関するトラブルは、適切な対応を取らないと深刻な問題に発展することがあります。ここでは、実際に起きた失敗例とその対処法をご紹介します。
正社員雇用でよくあるトラブル
資金ショートの危機
ある関東のサロンでは、オープン当初から3名の正社員を雇用したものの、想定より集客に時間がかかり、固定給の支払いに困窮。結果的に一時的な給与遅配が発生し、スタッフの信頼を失ってしまいました。
このようなトラブルを防ぐには、開業資金の30%程度は予備費として確保しておくことが大切です。また、最初は少人数でスタートし、売上に応じて段階的に増員することや、アシスタントはパート採用して固定費を抑えるなどの工夫も効果的です。
教育しても離職するスタッフ
関西の中規模サロンでは、新卒スタイリストの教育に週2回の技術講習や外部セミナーへの参加など、年間60万円以上投資したにもかかわらず、スキルが身についた3年目で競合サロンへ転職されてしまいました。
こうした問題を解決するには、入社時に3〜5年のキャリアプランを具体的に提示することが重要です。技術レベルに応じた明確な昇給・昇格制度を導入したり、スキルアップに連動したインセンティブ制度を設けることで離職防止につながります。
業務委託で注意したい「偽装請負」リスク
業務委託契約でもっとも注意すべきは「偽装請負」のリスクです。契約上は業務委託でも実態が「雇用」と判断されると、社会保険料や所得税の追徴課税などのペナルティを受ける可能性があります。
偽装請負と判断されるリスクが高いケースには、サロンから具体的な業務指示を受けている場合、勤務時間や休日が固定されている場合、サロン指定の制服着用や接客マニュアルの順守が求められる場合などがあります。
このリスクを避けるためには、業務委託契約書に業務内容と報酬計算方法を明確に記載すること、シフトではなく「予約可能時間帯」として設定すること、マニュアルではなく「推奨サービス」として提案するにとどめることなどが有効です。
面貸しでのトラブルを防ぐポイント
面貸し美容師間のトラブルは意外と多いものです。共有スペースの使用や顧客の取り合いなどを巡って対立が生じ、サロン全体の雰囲気が悪化することも少なくありません。
このようなトラブルを防ぐには、入居時に共有スペース利用ルールを細かく説明し、書面化しておくことが大切です。また、相互紹介制度など、協力することでメリットが生まれる仕組みを導入することも効果的です。
設備の老朽化に伴う修繕費用の負担割合についても事前に取り決めておくと安心です。経年劣化と過失の区別などを明確にし、修繕積立金制度を導入して月々一定額を積み立てておくことをおすすめします。
美容師のキャリアステージから考える最適な雇用形態
美容師のキャリアステージによっても、望ましい雇用形態は異なります。スタッフの成長に合わせて、適切な雇用形態を提案することで、長期的な定着と成長を促すことができます。
新人〜中堅(経験3年未満)
この時期は技術向上と経験の蓄積が最優先です。安定した収入と充実した教育環境を求める傾向が強いため、正社員または準社員、次点でパート・アルバイトが適しています。
給与よりも教育内容と将来性を重視し、技術講習の頻度や先輩スタイリストのレベル、昇給・昇格制度などをチェックして雇用形態を選ぶとよいでしょう。
中堅〜ベテラン(経験3〜10年)
この段階になると、自分のスタイルを確立しながら収入を増やしていきたいという欲求が強くなります。技術力と集客力に自信がつき始めると、インセンティブのある雇用形態が魅力的に映ります。
インセンティブ型正社員または業務委託、次点で高歩合の正社員が適しています。基本給と歩合のバランス、またはフリーランスとしてのリスク許容度を考慮することが大切です。
ベテラン(経験10年以上)
10年以上のキャリアを持つベテラン美容師は、独自の顧客基盤を持ち、自分のペースで働きたいという希望が強くなります。経済的な安定と自由度の高さを両立できる雇用形態が理想的です。
業務委託または面貸し、次点で高度なインセンティブ型正社員が適しています。集客力と顧客管理能力の自己評価、そしてリスクとリターンのバランスを考慮して選択するとよいでしょう。
雇用形態を組み合わせて理想のサロンを作る方法
実際の美容室経営では、ひとつの雇用形態だけでなく複数の形態を組み合わせることでメリットを最大化できます。サロンの規模や方向性、スタッフの特性などに応じて、最適な組み合わせを見つけていきましょう。
ベストミックスの例
- 中核となるスタイリスト:正社員
- 新人やアシスタント:パート・アルバイト
- 実力と集客力を持つスタイリスト:業務委託
- 独立志向の強いベテラン:面貸し
名古屋の人気サロンでは、スタイリストのキャリアステージに合わせて雇用形態を変えられる「ステップアップシステム」を導入。新人は教育を重視した正社員として採用し、経験を積むにつれて業務委託へ移行できるオプションを提供しています。独立志向の強いスタイリストには面貸しプランも用意しており、様々なライフスタイルや志向に対応できる体制を整えています。
このように、スタイリストの成長段階や希望に合わせて雇用形態を柔軟に変えられる環境を整えることで、長期的な人材確保と育成が可能になります。
まとめ:自分のサロンに合った雇用形態を見つけるためのチェックポイント
最後に、自分のサロンに最適な雇用形態を選ぶためのチェックポイントをまとめます。
サロンのビジョンは明確か?
- どんなサロン文化を作りたいか
- 長期的にどのような規模を目指すか
- 教育やスタッフ育成をどの程度重視するか
経営状況は安定しているか?
- 現在の資金状況はどうか
- 固定費をどの程度に抑えたいか
- 人件費率の目標は何%か
スタッフの特性や希望は?
- 現在のスタッフはどのような働き方を希望しているか
- 独立志向の強いスタッフはどの程度いるか
- 採用したい人材層はどうか
これらのポイントを総合的に検討し、自サロンの状況に最適な雇用形態を選択することが、長期的な経営安定と人材確保につながります。また、定期的に雇用形態の見直しを行い、サロンの成長や外部環境の変化に応じて柔軟に調整していくことも重要です。
美容室経営は人材が最大の資産です。雇用形態の選択一つで、スタッフのモチベーションや定着率、さらにはサロン全体の雰囲気まで大きく変わります。自分のサロンの特性と目指す方向性を見極め、最適な雇用形態を選択することで、スタッフも経営者も共に成長できる美容室づくりを実現しましょう。