この記事でわかること
- 設備資金と運転資金の本質的な違いと、なぜ運転資金借入が危険なのか
- 月5万円の返済に毎月23万円の売上増が必要になる逆算の仕組み
- 経営が苦しいときに運転資金を借りる前にやるべき4大コスト削減の優先順位
- 安全キャッシュライン(コスト2ヶ月分)とキャッシュ余力の計算方法
- コロナ融資の返済が始まったサロンが今すぐ確認すべき借入償還年数の目安
「売上が足りないなら、とりあえず借りて乗り切るしかない。」
独立4年目、1店舗、月商70万円前後。
コロナ融資の返済が始まり、毎月の支払いが綱渡りになってきたとき、多くのオーナーが最初に考えるのが「運転資金の借入」です。
多くのサロンを支援してきた経験から言えば、借りる前に「本当に借りるべきか」を数字で判断しているオーナーはほぼゼロに近い状態です。
月5万円の返済を新規売上でまかなおうとしたとき、利益率と税率を考慮すると毎月約23万円の売上増加が必要になります。
この逆算を知らずに借りるから、返済が経営をさらに苦しくするのです。
この記事では、運転資金を借りる前に必ず確認すべき判断基準を、計算式つきで具体的にお伝えします。
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美容室の融資には2種類ある|設備資金と運転資金はまったく性質が違う
設備資金は資産が手元に残りますが、運転資金は使ったら消えるだけです。
だから、資金が苦しいからといって運転資金を借りても、翌月の経営は何も変わりません。
この違いを理解した上で、「今の自分が必要としているのはどちらか」を先に判断することが、借入判断の出発点です。
設備資金は、内装工事・シャンプー台・パーマ機器・スチーマーなど、サロンの設備を購入・整備するために使う資金です。
借りたお金は「設備」という資産に変わるため、返済の裏付けが明確で、金融機関からも評価されやすい性質を持っています。
一方、運転資金は家賃・人件費・材料費・光熱費などの月々の支払いに充てる資金です。
使った瞬間に消えて、手元に何も資産として残りません。
経営が苦しい状態で運転資金を借りることは、「延命措置」でしかなく、根本的な問題は何も解決しません。
| 項目 | 設備資金 | 運転資金 |
|---|---|---|
| 用途 | 内装・機器・備品などの購入 | 家賃・人件費・材料費の支払い |
| 借りた後に残るもの | 設備という資産 | 何も残らない(消えるだけ) |
| 金融機関の評価 | 返済根拠が明確で評価されやすい | 根拠が弱く審査が厳しくなりやすい |
| リスク | 中程度 | 高い(売上が増えないと返済だけが積み上がる) |
| 借りるタイミング | 開業・リニューアル・増設 | 本来は「つなぎ」であるべき(長期依存は危険) |
「今の苦しさは設備不足が原因か、コスト超過が原因か」を先に切り分けることで、借りるべき資金の種類も変わります。
運転資金を借りても売上がゼロ円増えない理由
売上は客が決めるもので、経営者がコントロールできるのは経費だけです。
この原則を忘れると、運転資金を借りることが「経営の立て直し」になると勘違いしてしまいます。
運転資金を100万円借りたとします。
その100万円は家賃・人件費・材料費の支払いに消えます。
翌月、予約が増えているでしょうか。
新規客が来ているでしょうか。
答えはノーです。
借入は「売上を増やす手段」ではなく「支払いを先送りする手段」に過ぎません。
500サロン以上を支援してきた経験から傾向として言えば、資金繰りに行き詰まるサロンの多くは、コストが売上の80%を超えた状態のまま運転資金を繰り返し借り続けています。
借りるたびに「今月は乗り切れた」という安心感が生まれますが、翌月の返済が重なることでコストがさらに膨らみ、次の借入が必要になるという悪循環に入ります。
帝国データバンク(2025年)によれば、美容室の倒産は2025年1〜8月で157件と過去最多ペースで推移しています。
一方で、経費は経営者が意思決定次第でコントロールできます。
材料費の仕入れ先を見直す、広告費の出稿を絞る、シフトを調整して人件費を抑えるなど、今すぐ動かせる数字が必ずあります。
経営が苦しい状態で真っ先に動かすべきは「経費」であって「借入」ではないのです。
月5万円の返済に必要な新規売上を逆算すると23万円になる仕組み
利益率と税率を組み合わせて逆算すると、月5万円の返済をまかなうには毎月約23万円の売上増加が必要になります。
500サロン以上を支援してきた経験から言えば、この逆算を借りる前にやるオーナーはほぼいません。
「とりあえず借りてから売上を上げればいい」という順番で動いてしまうから、返済が経営をさらに苦しくするのです。
計算の仕組みをご説明します。
まず、売上から4大コスト(人件費・家賃光熱費・材料費・広告費)を引いた粗利(あらり=売上から直接かかるコストを引いた利益)の率を30%と仮定します。
つまり100万円の売上があっても、手元に残る利益は30万円です。
次に、そこから法人税や所得税などの税金(税率30%と仮定)を引くと、実際に返済に使える手取りの利益は30万円×70%=21万円になります。
逆算してみます。
月5万円を返済するには「5万円 ÷(30% × 70%)」の計算で、約23.8万円の新規売上が必要です。
| 条件 | 数字 | 意味 |
|---|---|---|
| 月返済額 | 5万円 | 借入で毎月出ていくお金 |
| 利益率(粗利率) | 30% | 売上から経費を引いた残り |
| 税率 | 30% | 利益から引かれる税負担 |
| 手取り利益率 | 21%(30%×70%) | 実際に使える利益の割合 |
| 必要な新規売上 | 約23万円 | 5万円÷21%で逆算した数字 |
月商70万円のサロンが毎月23万円も売上を上積みし続けるのは、かなりハードルが高いことが分かります。
しかも、これは月5万円の返済が1本だけの場合の話です。
コロナ融資の返済が10万円・新規借入の返済が5万円となれば、必要な新規売上は単純計算で約71万円に膨らみます。
この数字を「借りる前」に出すか「借りた後」に気づくかで、経営の行方がまったく変わります。
借入を検討しているなら、金額を決める前に必ずこの逆算を先にやってください。
経営が苦しいときに最初にやるべきこと|4大コスト削減の優先順位
人件費・家賃光熱費・材料費・広告費の4大コストの合計を売上の80%以内に戻すことが、運転資金を借りる前にやるべき最優先の行動です。
この4大コストの合計が80%を超えている状態を「コストメタボ」と言い、20%の余白がなくなると返済・税金・オーナー給与を捻出できなくなります。
支援してきた多くのサロンを見ると、コストメタボに陥っているオーナーほど「借りれば何とかなる」と考えやすい傾向があります。
しかし、コストが80%を超えたまま借りても、返済が重なることでコストはさらに膨らみます。
まず現状を確認してください。
直近3ヶ月の平均月商に対して、4大コストの合計が何%になっているかを計算します。
月商70万円なら、4大コスト合計が56万円以内であれば80%ラインをクリアしています。
次に、削減できる順番を知ることが重要です。
優先順位は「材料費 → 広告費 → 人件費 → 家賃」の順で検討するのが現実的です。
| コスト項目 | 目安の比率 | 削減のポイント |
|---|---|---|
| 人件費 | 売上の45〜50%以内 | シフト最適化・オーナー自身の作業見直し |
| 家賃光熱費 | 売上の10〜15%以内 | 短期での変動が難しい・交渉や移転は中長期で検討 |
| 材料費 | 売上の10〜15%以内 | 仕入れ先の見直し・使用量の記録と管理が即効性あり |
| 広告費 | 売上の5〜10%以内 | 費用対効果(ROI=かけたお金が何倍で返るか)が出ていない媒体から削る |
材料費は仕入れ先の変更や使用量の見直しで短期間で動かしやすい項目です。
広告費は「どの媒体から予約が来ているか」を確認し、効果のない出稿から止めます。
人件費の削減はスタッフの離職につながるリスクがあるため、シフト調整や業務効率化を先に試します。
家賃は契約があるため短期では動かしにくいですが、更新のタイミングでの交渉や移転を中長期の選択肢に入れておくことが重要です。
4大コストの合計を80%以内に戻してから初めて、借入の必要性を再検討する順番が正しい経営判断です。
それでも借入が必要な場合の3ステップ|借り換え・必要売上計算・施策の絞り込み
新規で運転資金を借りるよりも、既存の借入を借り換えて据え置き期間(元本返済を一時停止する期間)を確保するほうが、月々の返済負担を減らせてリスクが低くなります。
4大コストを削減してもキャッシュが足りない場合、次の3つのステップで判断します。
ステップ1:借り換えと条件変更を先に検討する
新規で借りる前に、今の借入先に「返済条件の変更(リスケジュール=返済スケジュールの見直し)」や「据え置き期間の設定」を相談します。
月々の返済額を減らすことができれば、新たに借りなくてもキャッシュが回る可能性があります。
ステップ2:必要売上を逆算してから借入額を決める
前の章でお伝えした「月返済額 ÷(利益率 × (1−税率))」の計算式で、借りた場合に必要になる新規売上を必ず先に算出します。
「返せる根拠」が数字で出ない限り、借入額を増やすことはしません。
ステップ3:売上を増やす施策を1〜2個に絞り込む
借入後に「何をすれば売上が増えるか」の施策を、今すぐ実行できるものに絞り込みます。
「あれもこれも」と手を広げると、どれも中途半端になって売上は増えません。
具体的には、次の2パターンが実行しやすい例です。
- 既存客のリピート率(再来店する割合)を5%上げる:来店サイクルが90日を超えている客に対して、次回予約を来店時に取る声がけを徹底する
- 失客客(一度来て戻っていない客)へのアプローチ:過去6ヶ月以内に来店して以降来ていない客に対してDMやメッセージを月50件送る
どちらも「新規客の獲得」ではなく「すでに接点がある客への再アプローチ」であるため、広告費をかけずに実行できます。
施策を絞り込むことで、借入後の「返済のための行動」が明確になり、返済計画が絵に描いた餅ではなくなります。
安全キャッシュラインとキャッシュ余力の計算方法|今の財務状態を数字で確認する
預金残高から消費税見込みとサロンコスト2ヶ月分を引いた「キャッシュ余力(=本当に使えるお金)」がゼロ以下なら、即座に行動が必要です。
この計算を毎月やっているサロンと、通帳残高だけを見ているサロンでは、経営判断のスピードがまったく違います。
まず「安全キャッシュライン」を計算します。
安全キャッシュライン=サロンコスト(月の固定費)×2ヶ月分です。
月のコストが50万円なら、安全キャッシュラインは100万円になります。
次に「キャッシュ余力」を計算します。
キャッシュ余力=預金残高 − 消費税見込み(売上の約9%が目安)− 安全キャッシュラインです。
| 項目 | 計算例(月商70万円・月コスト50万円) | 判断基準 |
|---|---|---|
| 預金残高 | 120万円 | 通帳で確認 |
| 消費税見込み | 約63,000円(70万円×9%) | 納税前提で除外する |
| 安全キャッシュライン | 100万円(50万円×2ヶ月) | 最低限キープすべき金額 |
| キャッシュ余力 | 約137,000円 | これがゼロ以下なら即行動 |
「通帳に120万円ある」と思っていても、消費税と安全キャッシュラインを引くと実際に使えるお金は13万円程度しかない、というケースは珍しくありません。
キャッシュ余力がゼロに近づいている状態で運転資金を借りても、その瞬間は楽になるだけで根本は変わりません。
この計算を毎月1回、月末に行う習慣をつけることで、資金ショート(お金が底をつくこと)を事前に察知できます。
コロナ融資の返済が始まったサロンが今すぐ確認すべきこと
借入償還年数(借入残高を年間キャッシュフローで割った年数)が10年を超えると、新規融資が実質的に受けられなくなります。
コロナ融資の返済が始まった2026年時点、多くの1店舗サロンがこのラインに近づいていることを、まず数字で確認してください。
借入償還年数の計算式は「借入残高の合計 ÷ 年間の返済可能額(税引き後利益+減価償却費)」です。
目安は次のとおりです。
- 5年以内:優秀。新規融資も受けやすい状態
- 10年以内:許容ライン。経営改善を続ければ融資の余地がある
- 10年超:新規借入が実質困難。金融機関からの評価が大幅に下がる
コロナ融資に加えて運転資金をさらに借りてしまうと、借入残高が積み上がり、この償還年数がどんどん延びます。
償還年数が10年を超えた状態では「本当に必要なとき(設備更新・リニューアル)」に融資が受けられなくなる事態になりかねません。
今すぐ確認すべきことは3つです。
- コロナ融資を含む借入残高の合計を出す
- 年間の返済可能額(税引き後利益+減価償却費)を計算する
- 借入償還年数が何年になるかを計算する
この3つの数字を把握するだけで、「もう1本借りるべきか」「借りるならいくらまでか」の判断が初めてできるようになります。
コロナ融資の返済条件の変更(リスケジュール)は、まだ多くの金融機関で相談に応じています。
借入を増やす前に、まず現在の借入先に条件変更の相談をすることを強く勧めます。
まとめ
この記事のポイントを表にまとめます。
| ポイント | 問題の本質 | 借りる前にやること |
|---|---|---|
| 設備資金と運転資金の違い | 運転資金は使ったら消えるだけで資産が残らない | 「何が残るか」を確認してから借入の種類を判断する |
| 運転資金は売上を増やさない | 売上は客が決める・経費は経営者が決める | まず4大コストの合計を売上の80%以内に戻す |
| 月5万円返済=約23万円の売上増が必要 | 逆算をせずに借りるから返済が地獄になる | 「月返済額 ÷ 21%」で必要売上を先に計算する |
| キャッシュ余力の確認 | 通帳残高は「使えるお金」ではない | 預金残高 − 消費税見込み − コスト2ヶ月分を毎月計算する |
| 借入償還年数の管理 | 10年超になると新規融資が実質不可能 | 借入残高と年間返済可能額を計算して現状を把握する |
今すぐできる行動をまとめます。
- 直近3ヶ月の4大コスト合計を計算して売上の何%かを確認する
- 「月返済額 ÷ 21%」の計算式で、借入が必要な場合の必要新規売上を逆算する
- 預金残高から消費税見込みとコスト2ヶ月分を引いたキャッシュ余力を出す
- 借入残高の合計を把握して借入償還年数を計算する
- コロナ融資の借入先に、返済条件の変更を相談できるか確認する
経営が苦しいとき、最初にやるべきは借入ではなく経費の見直しです。
それでも借入が必要と判断した場合は、「月返済額 ÷ 21%」の逆算を先にやることで、初めて「借りるべきかどうか」の正しい判断ができます。
毎月の支払いが綱渡りになっているいま、焦って借りる前に、この記事の計算を一度だけ紙に書いてみてください。
よくある質問
Q. 運転資金を借りること自体がダメなのでしょうか?
A. 一時的なつなぎとして借りること自体が問題なわけではありません。
問題は「借りれば何とかなる」という判断で、根本原因(コストが80%を超えている・売上が落ちている)を放置したまま借り続けることです。
借りる前に4大コストの削減と「月返済額 ÷ 21%」の逆算を必ずセットで行うことが重要です。
Q. コロナ融資の返済条件変更を相談すると、信用情報に傷がつきますか?
A. 返済条件変更(リスケジュール)は、個人の信用情報(クレジットスコア)とは異なる扱いになる場合が多いです。
ただし、金融機関の内部評価には影響することがあります。
条件変更後に経営改善の計画を数字で示せるかどうかが、その後の融資関係に大きく影響します。
詳細は担当の金融機関や、税理士・中小企業診断士(経営の専門家)に確認することを勧めます。
Q. 4大コストを削減しようとしたら「どこから手をつければいいか分からない」状態です。
A. まず材料費から始めることを勧めます。
仕入れ先や使用量の見直しは、スタッフの雇用条件や家賃契約に影響せず、比較的短期間で動かせます。
次に、広告費の費用対効果(ROI=かけたお金が何倍で返るか)を媒体ごとに確認し、予約実績のない媒体への出稿を止めます。
この2つだけでも、月数万円単位でコストが変わることがあります。
Q. 月商70万円程度のサロンが借入を増やさずに資金繰りを安定させることはできますか?
A. 4大コストを80%以内(月56万円以内)に抑えられていれば、借入なしでもキャッシュは安定しやすい構造です。
ただし「コスト80%以内でも手元に残らない」場合は、オーナー給与の計上方法や消費税の見込み計上が適切にできていない可能性があります。
まずキャッシュ余力の計算を月次で行い、どこで現金が減っているかを特定することから始めてください。
Q. 借入償還年数が10年を超えてしまっている場合、どうすればいいですか?
A. 焦って新規借入を増やすことは逆効果です。
まず返済条件の変更で月々の返済額を下げ、コスト削減で年間の返済可能額を増やすことが先決です。
借入償還年数は「残高を減らすか、返済可能額を増やすか」でしか改善しません。
金融機関との交渉には、経営改善計画(数字ベースの計画書)を用意しておくことで、相談の実現度が上がります。


